
厳寒期はハウス内が低温・多湿・低日照条件になるため、光合成低下→栄養成長優先→根張り低下、花質低下、果実の小玉化や空洞果など品質の低下、軟弱徒長とそれに伴う病気の発生など課題が山積!
本記事では、これらの課題を解決するための**"厳寒期の栽培管理のポイントと注意点"** を、分かりやすくご紹介します。
1.温度管理
- 目安:昼温23-26度、夜温10~12度
温度調整が可能な時期です。温度管理により、樹勢や栄養成長と生殖成長のバランスを調整することをお勧めします。
- 基本は、樹勢を強めたい場合はハウス内温度を低めに、生殖成長に傾けたい場合は昼夜の温度較差を広げるです。。
樹勢が低下し栄養成長に傾きやすい厳寒期は、昼温は変えずに夜温を低めに設定します。
例)昼温:25度→25度、夜温:12度→11度
- 冬季にハウス内温度が急激に上昇すると、果実表面の温度と気温の差が大きくなり、果実表面に結露が生じて、肥大の低下や灰色かび病などの病気が招きやすくなります。そこでお勧めなのが早朝加温、早朝から徐々に温度を上げることにより、果実表面の結露を軽減させます。
例)深夜:10度、日出の2時間前:12度、日出の1時間前:14度、日出の時間に16℃、その後の換気温度設定も1時間に2度程度徐々に上昇)
2.湿度管理
- ハウス内の保温を優先させるあまり、ハウスを締め切る時間が長くなると、ハウス内が過湿になり、軟弱徒長を助長したり、灰色かび病などの病気の発生リスクが高まります。適正な湿度を維持するために、適宜換気を行いましょう!換気には、外気の二酸化炭素(CO2)を取り込むことで、光合成の効率を高める効果もあります。

写真1 換気
3.炭酸ガス(二酸化炭素)
光合成促進対策として炭酸ガス発生機の導入が進んでいますが、トマトでは特に果実の肥大促進・品質向上と樹勢維持の効果が認められています。
- 外気には400ppm前後の炭酸ガス(二酸化炭素)が存在していますが、保温開始とともに外気を取り入れる機会が減りハウス内の炭酸ガスの濃度が低下します。その結果、光合成に必要な炭酸ガスが十分に植物に供給されないため、光合成速度が低下して収量や品質が低下してしまいます。
炭酸ガスの施用
- ハウス内の炭酸ガス濃度の目安は外気と同程度の400ppmから500ppm程度で効果を得ることができます。
- 従来は日の出前後に2時間程度の連続施用を行う「早朝施用」が中心でしたが、この施用方法ではハウス内の炭酸ガス濃度が早朝一時的に1,000ppmを超える一方、日中は外気以下の濃度まで低下するため、最近は午前9時頃から午後3時頃まで1時間毎に施用する、いわゆる「ちょい炊き」が主流になっています。また、最適な炭酸ガス管理のためにセンサーを導入して炭酸ガス発生機と連動させる方式もあります。
4.葉かき、玉出し
- 収穫開始以降は、1段分の収穫を終える毎に1段分の葉かきを行うのが基本。ハウス内の湿度は葉からの水分の蒸散量の影響を受けますので、残す葉の枚数はハウス内湿度を考慮して調整しましょう。
- 果実の肥大や着色を促進するため、果実に光が当たるよう、果実を覆っている葉をかく玉出しも有効です。
- 葉かきは通気性の改善や薬剤のかかりムラを軽減する意味でも重要です。

写真2 葉かき後の状態
5.摘果
- ハウス促成栽培では、長期にわたり樹勢、栄養成長と生殖成長のバランスを保つとともに、安定した着果数を維持することが多収の必要条件!そのために重要なのが摘果です。
着果量が多ければ、樹勢低下→小玉果・空洞果
着果量が少なければ、樹勢過多・栄養成長過多→乱形果
- 大玉トマトの1果房当りの着果数の目安は3~5個ですが、樹勢や品種により調整することがポイントです。
6.灌水管理
- 厳寒期の灌水は水温に注意!
河川水や配管内の冷たい水が灌水されると、地温を低下させるだけでなく根傷みの原因となります。ヒーター等により水を温める方法が理想的ですが、水温を考慮して灌水の時間帯を変更することでも一定の効果が期待できます。灌水時間の目安は、地温が一番低下し、逆に水温がある程度上昇する午前10~11時頃。
具体的に灌水ポイントを要チェック!
- まずは少量多灌水が基本です。土を固めず団粒構造を崩さないで、全ての株元へ均一に灌水できる点滴灌水チューブが理想的です。
- 土壌が乾燥気味の場合は、樹勢低下、果実の肥大低下を、更に乾燥が続いた場合は、萎れ、チップバーン(葉先枯れ)、ガク焼け、尻腐れ、芯腐れなどの生理障害を招きますが、逆に糖度や食味は上昇します。
- 一方土壌が過湿気味の場合は、栄養成長に傾くとともに樹勢が強くなり、乱形果や異常茎を招きます。また、根と微生物が呼吸できずに、上根になってしまい根を深くまで張らせることが出来ません。毛細根の量も著しく低下します。
- 天候や土壌水分、生育状況に応じた灌水量とタイミングで適切に調整するためには、テンションメーター(土壌水分計)の活用が効果的です。土壌水分を見える化(数値化:pF値)します。適正なpF値の目安は1.7~2.1(2.3)です。数値が大きいほど乾燥を示し、数値が小さいほど過湿となります。例:pF2.1以上の場合は灌水量を増やし、pF1.7以下の場合は灌水量を減らします。

写真3 点滴灌水チューブ
7.肥培管理
厳寒期は気温や地温、日射量の低下の影響や根張りの低下により、肥料の吸収が全体的に低下するだけでなく、バランスが崩れやすい時期です。
PsEco植物分析では、トマトが必要とするチッソ・リンサン・カリ・カルシウム・マグネシウムから微量要素に至るまで適正に吸収できているか分析し、また、吸収できていなければその原因を解明して最適な追肥・葉面散布のメニューを提案します。
- 灌水と同様「少量多施肥」が重要。できるだけ灌水の度に薄めの液肥を追肥して下さい。肥料の吸収効率が良くなるだけでなく、糖度や食味が安定します。
- 厳寒期は地温の低下や着果負担により、根の量・質ともに低下しています。肥料成分の追肥以上に、発根を促進するための海藻エキス、酵素、微生物資材の追肥が必要です。
- 根からの肥料吸収が困難になる時期です。葉水の上りが少ない状態は、根の活力が低下しているサインです。そんな時は、葉面散布が即効で効果を発揮します。
厳寒期は従来の①発根促進、②栄養成長抑制、③カルシウム・微量要素の欠乏対策、④理想的な葉づくり、⑤株づくり、⑥果実肥大促進にくわえて、日照不足による光合成低下対策が重要になります。
①発根促進のための追肥と葉面散布
団粒構造と保肥力改善に働くことで知られている腐植酸は、実は土壌微生物の活性化にも非常に効果的です!有機物の分解や団粒構造の形成、肥料の分解や作物の養水分吸収の促進、土壌病害の抑制と根の保護、土づくりと作物の生育には微生物が大きく関係しています。肥培管理と併せて、微生物資材および微生物を活性化させる資材の活用が必須です。
②栄養成長抑制のための追肥と葉面散布
吸収効率の高い亜リン酸とリン酸の代謝を促進してくれる酵素の相乗効果で生殖成長型の草姿を実現!
③カルシウム・微量要素の欠乏対策のための追肥と葉面散布
カルシウムやホウソ(微量要素の一種)が不足すると尻腐れ・芯腐れ・葉先枯れ・ガク焼けなどの欠乏症状が発生することは知られていますが、実は病気に対する免疫力・果実の日持ち、更には食味にも影響します。

写真4 尻腐れ
④理想的な葉づくりための追肥と葉面散布
- マグネシウムと微量要素による葉色改善と花質の改善(例)微量要素の宝船
働く葉づくりには、光合成を行う葉緑体の構成成分であるマグネシウムと、葉のまだら症状の予防と改善に働く多種でバランスが取れた微量要素がポイント!

写真5 葉のまだら症状
⑤株づくりのための追肥
- トマト専用液肥(チッソ・リンサン・カリ・マグネシウム・微量要素)による株づくり(例)PSアイミックスS2号
- 有機ミネラル液肥(アミノ酸・チッソ・リンサン・カリ・マグネシウム・微量要素)による株づくり(例)PSパワーアミノ2号
健全な株づくりには、アミノ酸・微量要素による有効微生物の活性化がポイント!
⑥果実肥大促進と登熟促進のための追肥と葉面散布
⑦光合成低下対策の追肥と葉面散布
- 日射量が少ない厳寒期は、樹勢を回復させるためにチッソ入り肥料を追肥したとしても、チッソが同化(アミノ酸の形態を経て植物を構成するタンパク質に転換)する際に必要な光合成産物(糖分)が不足しがちです。その結果、未消化チッソが蓄積され葉色が濃くなるだけで、樹勢が回復しないばかりか、組織が軟弱になり病害虫が発生しやすくなります。こんな時こそ、光合成産物である糖分やタンパク質に転換しやすいアミノ酸の登場です。チッソの同化を促進し、樹勢回復だけでなく果実の肥大や食味が改善されます。
- アミノ酸や糖分を含む資材の中には、粘性が強く、目詰りの心配があり、灌水チューブでは使用できないものもあります。点滴灌水チューブでも安心して使用できる資材をご使用下さい。
- アミノ酸と糖分によるの補給(例)PSアミノシュガー 葉面散布専用
・糖分(トレハロース)の補給(例)(例)アルバトロス
・有機ミネラル液肥(アミノ酸・チッソ・リンサン・カリ・マグネシウム・微量要素)(例)PSパワーアミノ2号
8.厳寒期の病害虫対策のポイント
8.1 病気
厳寒期はハウス内が低温・多湿になりがち。低温・多湿条件が続くと、疫病・灰色かび病が発生しやすくなります。とにかく!早期予防・早期防除で、多発・まん延させないことが重要です。後手にまわってしまい、多発・まん延してからでは防除は困難です。さらに!薬剤抵抗性にも注意したローテーション散布が必要です。
疫病
<症状や発生要因>
- 葉、茎、果実に発生
- 葉では灰緑色の小斑点が発生、次第に拡大して灰褐色から暗褐色に変色
- 果実では、茶褐色の病斑が発生し腐敗する
- 茎に茶褐色の病斑が発生した場合、発生部位より上の部分が枯死することもある
- 低温・多湿条件で発生しやすい
- チッソ過剰や軟弱徒長で発生しやすい
- 菌の生育適温20℃前後
<対策>
- RACコードを活用したローテーション散布による予防
例)ザンプロDFフロアブル(RACコードF:45・40)→ペンコゼブフロアブル(RACコードF:M3)→ホライズンドライフロアブル(RACコードF:27・11)
- 多湿条件で発生しやすいため、換気・早朝加温・マルチなどにより適正な湿度を維持
- 過繁茂にならないように、密植を避け、適宜葉かきを行なう
- 被害部位は速やかにビニール袋等で密閉して処分する
- 追肥や葉面散布による免疫力強化と茎葉強化が鍵!
茎葉強化の資材 PSセルパワーアップ、PSカル
免疫力強化のための微生物 PSコレイーネ、PSバイオギフトLIQ
免疫力強化のための酵素 アーキア酵素むげん

写真6 疫病
灰色かび病
<症状や発生要因>
- 葉、花、果実、茎に灰色のかびが発生する
- 傷口や枯死した部分から発生しやすい→ 葉先枯れは要注意
- 花弁にかびが密生し、花落ち部から果実に広がる場合が多い
- 果実に発生した場合は腐敗する、果実に白い病斑(ゴーストスポット)が発生することもある
- 茎に発生した場合、発生部位より上の部分が枯死することもある
- 多湿条件で発生しやすい
- チッソ過剰や軟弱徒長で発生しやすい
- 菌の生育適温20℃前後
<対策>
- RACコードを活用したローテーション散布による予防
例) ベルクートフロアブル(RACコードF:M7) →セイビアーフロアブル20(RACコードF:12)→パレード20フロアブル(RACコードF:7)
- 多湿条件で発生しやすいため、換気・早朝加温・マルチなどにより適正な湿度を維持
- 過繁茂にならないように、密植を避け、適宜葉かきを行なう
- かびが発生源となるため、被害部位は速やかにビニール袋等で密閉して処分する
- 花落ちの悪い品種の場合は、受粉後花弁を摘み取る方法が有効
- チッソ過剰や軟弱徒長により発生しやすくなるため、追肥や葉面散布による免疫力強化と茎葉強化が鍵!
茎葉強化の資材 PSセルパワーアップ、PSカル
免疫力強化のための微生物 PSコレイーネ、PSバイオギフトLIQ
免疫力強化のための酵素 アーキア酵素むげん

写真7 灰色かび病
8.2 害虫
タバココナジラミが媒介するトマト黄化葉巻ウイルスが各地で問題になっています。ウイルス病は感染してしまうと治療方法がありません。いかにタバココナジラミを叩くかが鍵です。定植後の生育初期に感染することが多いので、定植時からの防除が重要です。さらに!薬剤抵抗性にも注意したローテーション散布が必要です。
コナジラミ
<症状や発生要因>
- オンシツコナジラミとタバココナジラミの2種、どちらも成虫の体長は1.0~2.0mm程度
- 幼虫、成虫が葉裏に寄生し吸汁し、その部分が白色に変色
- 幼虫、成虫が排泄する甘露が付着した部分に黒いかびが発生
- タバココナジラミの場合、果実に着色ムラが発生することがある
- タバココナジラミはトマト黄化葉巻ウイルスを媒介する
- オンシツコナジラミはトマト黄化ウイルスを媒介する
<対策>
- 定植時の殺虫剤の畝穴土壌混和処理や灌注処理
例)アルバリン粒剤(RACコードI:4A)、ベストガード粒剤(RACコードI:4A)、ベリマークSC(RACコードI:28)
- RACコードを活用したローテーション散布による防除
例)アニキ乳剤(RACコードI:6)→コルト顆粒水和剤(RACコードI:9B)→ディアナSC(RACコードI:5)→トランスフォームフロアブル RACコードI:28)
抵抗性が発達しにくい気門封鎖型の農薬もお勧めです。
サフオイル乳剤(RACコードI:未)
- ハウスでは、天窓やサイドなどの換気部に防虫ネットを張って、外からの侵入を防止する
- 白色マルチなど反射資材をハウスの周辺部に設置して、外からの侵入を防止する
- 黄色粘着板や粘着ロールを設置して、発生の確認と捕殺
- 発病株は伝染源となるため、速やかにビニール袋等で密閉して処分する
- ハウス周辺の雑草に寄生するため除草する(意外と怠りがち)
アザミウマ
<症状や発生要因>
- ミカンキイロアザミウマとヒラズハナアザミウマの2種、どちらも成虫の体長は1.0~1.7mm程度
- 幼虫、成虫が葉に寄生し吸汁し、その部分が白色・褐色に変色
- 開花時に子房に産卵した場合、果実に産卵跡が白ぶくれ症状として残る
- トマト黄化えそウイルスを媒介する
<対策>
- 定植時の殺虫剤の畝穴土壌混和処理や灌注処理
例)プリロッソ粒剤(RACコードI:28)、ベリマークSC(RACコードI:28)
- RACコードを活用したローテーション散布による防除
例)スピノエース顆粒水和剤(RACコードⅠ:5)→マッチ乳剤(RACコードⅠ:15)→ディアナSC(RACコードⅠ:5)→ベネビアOD(RACコードⅠ:28)
- ハウスでは、天窓やサイドなどの換気部に防虫ネットを張って、外からの侵入を防止する
- 白色マルチなど反射資材をハウスの周辺部に設置して、外からの侵入を防止する
- ハウス周辺の雑草に寄生するため除草する(意外と怠りがち)
トマト及びミニトマトの防除はマルハナバチや天敵への影響を考慮して行うことが重要です。農薬の使用については、各都道府県(病虫害防除所)の指導をご確認下さい。
上記の使用例では、トマトとミニトマトの両方に登録された農薬を記載しています。
"厳寒期の栽培管理ポイントと注意点" については以上です。